非正規と正規との労働条件の不合理な格差を禁じた労働契約法20条について争われた2件の訴訟について、平成30年6月1日に、最高裁判所(最高裁)が判決を下しました。
同条について最高裁が判断を示すのは初めてということで、注目を集めていました。
2つの事件とその判決の概要は次のとおりです。
――― 非正規の待遇格差訴訟 最高裁が初判断(2つの事件とその判決の概要)―――
1.ハマキョウレックス事件(未払賃金等支払請求事件)について
物流会社「ハマキョウレックス」の契約社員の運転手が「住宅手当などが正社員にのみ支給されるのは不当だ」と訴えた裁判。
一審の地裁の判決(平成27年9月)では、通勤手当の格差のみ不合理と認めたが、
二審の高裁の判決(平成28年7月)では、無事故手当や給食手当などの格差も不合理と判断。
⇒今回の最高裁の判決では、これまでに格差が不合理と判断された通勤手当などの4つの手当に加え、
皆勤手当についても、正社員に支給しながら契約社員に支給しないのは「不合理」と判断
(合理的とする高裁判決は破棄し、事実関係を精査するため同高裁に差し戻し)。
一方、住宅手当については、正社員と契約社員の間に転勤の有無など差があることを踏まえ、
契約社員に支給しないのは「不合理といえない」と原告の訴えを退けた。
2.長澤運輸事件(地位確認等請求事件)
運送会社「長澤運輸」を定年後に再雇用された運転手3人が、「定年前と同じ仕事なのに
給与が引き下げられたのは不当だ」と訴えた裁判。
一審の地裁の判決(平成28年5月)では、「再雇用制度を賃金コスト圧縮手段に用いるのは正当ではない」と判断。
しかし、二審の高裁の判決(同年11月)では、「賃下げは社会的に容認されている」と指摘し、正当と判断
(運転手側逆転敗訴)。
⇒今回の最高裁の判決では、正社員と非正規社員の賃金格差が不合理かどうかは、
「賃金総額の比較のみではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」とする判断を示した。
その上で、精勤手当については「相違は不合理である」と支払いを命じたが、
その他の基本給や大半の手当については、3人に近く年金が支給される事情などを踏まえ、
格差は「不合理ではない」として請求を退けた(精勤手当に連動する超勤手当については、
事実関係を精査するため高裁に差し戻し)。
☆個別の手当についての判断が明確になりましたが、これまでの解釈の根本的な部分を抜本的に
変更するような判決ではなかったといえます。
非正規の労働者を雇用する各企業の対応としては、争いの根拠となった労働契約法20条に対する
理解を深めた上で、最高裁の判断を踏まえ、今一度、個別の手当について不合理な待遇差が生じ
ていないか確認しておく必要があるでしょう。
定年後の再雇用については、定年前の賃金から20%程度を減額することは許容されるといった結果
になりました。これに胸をなでおろす企業も多いようですが、これは最低限度の対応といったところです。